大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)4263号 判決 1979年4月23日

原告

前田和孝

井上福見

梶昭夫

塚本保男

右原告ら訴訟代理人

河村武信

海川道郎

被告

大阪市

右代表者

大島靖

右訴訟代理人

俵正市

右訴訟復代理人

苅野年彦

主文

一  被告は、原告前田和孝に対し金五八万一八三八円及び内金二九万〇九一九円に対する昭和四六年五月二五日から、内金二九万〇九一九円に対する本判決確定の日の翌日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を、原告井上福見に対し金一九〇万三八四六円及び内金九五万一九二三円に対する昭和四六年五月二五日から、内金九五万一九二三円に対する本判決確定の日の翌日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を、原告梶昭夫に対し金九七万一三六二円及び内金四八万五六八一円に対する昭和四六年五月二五日から、内金四八万五六八一円に対する本判決確定の日の翌日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を、原告塚本保男に対し金二六万七八六四円及び内金一三万三九三二円に対する昭和四六年五月二五日から、内一三万三九三二円に対する本判決確定の日の翌日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項記載の金員のうち主たる認容金額につき各六分の一の限度において、昭和四六年五月二五日以降の附帯認容金額につき各三分の一の限度においてそれぞれ仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告前田に対し金五八万四二六二円及びこれに対する昭和四六年五月二五日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を、原告井上に対し金一九一万〇二七二円及びこれに対する右同日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を、原告梶に対し金九七万三四九〇円及びこれに対する右同日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を、原告塚本に対し金二六万八二四四円及びこれに対する右同日から支払済に至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第1項につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  担保を供する仮執行免脱宣言。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告井上、同梶は昭和四三年八月以前から、同前田は昭和四四年六月から、同塚本は同年一二月から、それぞれ大阪市立淡路中学校に勤務する校務員であつて、地方公務員法第五条の「単純な労務に雇用される」地方公務員であり、被告は原告らに対し給与支払の義務を負う者である。

2  原告らの本来の勤務(以下、本務という)は、月曜日から金曜日までは午前八時三〇分から午後五時一五分(休憩時間四五分を含む)まで、土曜日は午前八時三〇分から午後〇時三〇分までである。本務以外の宿直勤務は午後五時一五分から翌日午前八時三〇分までであり、そのうち午後一〇時から翌日午前五時までの間は深夜勤務に該当する。また、日曜、祝日の日直勤務は午前八時三〇分から午後五時一五分までである。

3  原告らは、昭和四三年八月から同四五年八月までの間において、大阪市教育委員会の指示を受けた淡路中学校長の命令を受けて、本務以外に別紙一記載のとおり宿直・日直勤務(以下、宿日直という)に従事した。

4  原告らがなした右宿日直勤務に対する労働基準法(以下、法ともいう)第三七条所定の割増賃金(以下、超過勤務手当という)は、別紙二ないし五各D欄記載のとおりであり、その算出方法、支払期日は以下(一)ないし(三)記載のとおりであり、超過勤務手当算出の基準となる原告らの本俸及び調整手当の金額は、別紙二ないし五の本俸、調整手当各欄記載のとおりであり、右によつて算出される超過勤務手当の計算関係は別紙二ないし五記載のとおりである。

(一) 宿日直勤務の時間数は、超過勤務手当の支給割合を異にする時間帯毎に一か月を積算し、一時間未満の端数はその端数が三〇分以上のときは一時間とし、三〇分未満のときは切り捨てる。

(二) 一時間当りの超過勤務手当額は、深夜勤務を除く宿日直勤務については本俸と調整手当の合計金額を187.5で除して得た数に一〇〇分の一二五を乗じた金額であり、深夜勤務については本俸と調整手当の合計金額を187.5で除して得た数に一〇〇分の一五〇を乗じた金額である。

(三) 超過勤務手当は、当月分を翌月二〇日に支給する。

5  しかるに、被告は原告らに対し宿日直手当として原告らのなした前記宿日直勤務各一回につき昭和四四年一一月までは金八七五円の、同年一二月以降は金一〇〇円の各割合による金員を支払つた(原告らの受領した宿日直勤務に対応する宿日直手当の支給金額は別紙二ないし五既受取額欄記載のとおり)のみで、その余の支払をなさない。

6  よつて、原告らは被告に対し、原告らの前記4記載の超過勤務手当から既に宿日直手当として受領した金額を差し引いた未払超過勤務手当(別紙二ないし五各F欄記載の金員)及び被告が法第三七条に違反して超過勤務手当を支払わないので法第一一四条に基づく右未払超過勤務手当金額と同額の附加金並びに右各金員に対する支払期限後である昭和四六年五月二五日から各支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし5の事実はすべて認める。

三  抗弁

1  原告らの宿日直勤務は、次のような理由により法第四一条第三号にいう断続的労働に該当し、かつ労働基準法施行規則(以下、規則という)第二三条所定の所轄労働基準監督署長の許可(以下、二三条許可ともいう)に値する内容のものであるから、法第三二条ないし第四〇条の規定は適用されず、よつて、被告は原告らに対し、超過勤務手当を支払うべき義務はない。

(一) 原告らの本務の内容は、平常勤務としては一日二回午前・午後の区役所への逓送便、大阪市教育委員会・銀行への連絡、職員室・校長室その他校舎内外の清掃、施設器具の修理、ガス湯沸かし器を使用して湯茶を沸かすことなどであつて、常態として身体または精神緊張の少ないものであり、手待時間が作業時間より多く断続的労働に該当するものである。

(二) 宿日直の内容は、講堂・体育館等の鍵の保管、朝夕の校門の開閉、廊下のシヤツターの閉鎖や、職員室・校長室・事務室を施錠し、緊急電話・文書を収受することであり、非常災害等が発生した場合を除いては宿直室において食事をしたり、睡眠をとつたり、テレビをみたり、読書などをしているのが通常の状態であり、その業務は間歓的である。右勤務は原則として宿直室内ですることをもつて足り、特別の場合以外は巡視は不要としている。このため、校舎内に火災報知器、防犯警報器を設置している。また、電話の収受についても校内電話の二回線を宿直室に切換えることとしているが、官公署等と異なり宿日直勤務中に学校に電話のかかつてくることはほとんどない。宿直室には、二人分の寝具のほかガスストーブ一台、簡単な炊事器具、白黒テレビ一台、昭和四五年三月頃からはカラーテレビ一台が備えてある。そして、校務員の勤務を軽減するため、火元・戸締りの責任は教員に分担させ、始業時刻より早く登校する生徒のためには生徒管理に必要な教員が出勤している。

原告ら主張の宿直勤務時間にくい込む種々の会合の準備の多くは本務の時間内になされているものであり、後始末は会合に参加した人と共に行なうのが通常で、会合は会議室・図書室でなされるが同室の机の配列は会合に適するようになされているから後始末に机を動かしたりすることなどの必要はなく、後始末としては湯茶接待の片付けがあるにすぎず、宿直勤務を特に加重するものではない。

原告らは、宿日直勤務中決まつて行なう労働として校舎の施錠及び巡回、職員室・校長室の清掃並びに早朝の諸業務の三つをあげ、このための実働時間として四時間半ないし五時間はかかる旨主張するが、組合の実施した実態調査によつても右三業務のための実働時間は最高一九五分最低九〇分にすぎない。

なお、宿直勤務につき、午後一〇時から翌日午前五時までは就寝時間である。

右のような宿日直勤務のうち、宿直勤務については原告ら四名の校務員が、日直勤務については他の女子校務員一名と共に五名が交替に行なつているのであり、また、原告らの宿日直勤務の回数を軽減するため宿日直補助員としてアルバイトを使用することもある。

以上、要するに原告らの宿日直勤務は、法第三二条、第三七条等でいう通常の労働時間の労働とは異質の極めて軽微かつ間歇的な勤務であり、法第四一条第三号にいう断続的労働であつて、そのうえ労働時間は僅少で手待時間の極めて長いものである。

(三) ところで、法第四一条第三号の断続的労働の要件として以下の四点があげられる。

(1) 作業自体が本来間歇的に行なわれるもので、したがつて、作業時間が長く継続することなく中断し、しばらくして再び同じような態様の作業が行なわれ、また中断するというように繰り返されるものであること。

(2) 実作業時間の合計より手待時間(労働時間中の実作業に就かない時間であつて、休憩時間を含まない)の合計が多く、かつ、実作業時間の合計が八時間を超えないものであること。

(3) 労働及び手待時間中の危険性ないし有害性または精神緊張度の高いものでないこと。

(4) 断続的労働従事者については、労働時間・休憩のみならず休日に関する規定も適用されないのであるから、ある一日は断続的労働であつても他の日に通常の勤務に就くというような形を繰り返す勤務については、休日に関する規定を排除しても労働保護上差し支えなしとする理由が成り立たないので、「常態として断続労働に従事する者には該当しない」こととなり、除かれるべきであること。

行政実例は、右四要件を前提として小学校の用務員について原則的に監視または断続的労働であると認定している。

また、法第四一条第三号にいう「断続的労働に従事する者」とは、断続的労働を本務とする者に限定されない。すなわち、同条同号の規定は、その規制対象を必ずしも断続的労働を本務とする者に限定するものと解すべきではなく、他の業務に従事する者がその本務以外にこれに附随して宿日直勤務に従事する場合においてもこの両種の業務を合わせ一体として考察し、労働密度の点から過度の労働に至らず、労働時間、休憩及び休日に関する法的規制を宿日直勤務に関する限り除外しても労働者の保護に欠けるところがないと認められる場合をも包摂する趣旨の規定と解するのが相当である。

(四) 規則第二三条は、宿日直勤務のうちでも比較的軽易な労働内容の断続的業務について法第四一条第三号の適用があることを示したものであり、右の限定された趣旨において規則第二三条は法第四一条第三号に基づく解釈規定であると解すべきである。

(五) 被告は、原告らに対し一回の宿日直手当として昭和四四年一一月までは金八七五円を、同年一二月以降は金一〇〇〇円を支給してきた。

二三条許可に関する昭和三〇年八月一日基発第四八五号通達によれば、同種の労働者に対して支払われている賃金の一人一日平均額の三分の一を下らない手当額の支給をすることが右許可の条件となつているところ、前記宿日直手当は右基準をはるかに超えるもので、宿日直勤務の対価としては充分な金額である。

また、原告らの宿日直勤務は、昭和二二年九月一三日基発第一七号による二三条許可の基準に合致し、宿日直の回数に関する昭和二三年四月一七日基収第一〇七七号が原則として日直については月一回を、宿直については週一回を基準とし、それを超えるものは勤務回数が頻繁にわたるものとして許可を与えないとする趣旨にも該当し、小規模公署の宿日直に関する昭和三四年三月二三日基発第一七六号、人員僅少な駅の宿直に関する昭和二六年九月一九日基収第四四二二号、昭和三三年二月一三日基発第九〇号及び前記基収第一〇七七号の例外をなす昭和二三年九月二九日基収第三四五八号、昭和三三年二月一三日基発第九〇号の通達の趣旨を総合勘案するならば、労働密度も薄く精神緊張も少なく、かつ充分睡眠のとれる原告らの宿日直勤務には、相当な対価を支給しているのであるから二三条許可を受けられるものである。

(六) 大阪市教育委員会及び淡路中学校校長は二三条許可を受けていないが、前記のとおり、原告らの宿日直勤務は実質的に二三条許可を受け得る職務内容であるから、右許可を得ずしてなされた宿日直勤務であつても法第三七条の超過勤務手当を支払う義務はない。

2  被告らに対し、別紙六記載のとおり特定の用務のため超過勤務を命じ、右各超過勤務に対応する時間外勤務手当を同別紙記載のとおり支給した。<以下、事実省略>

理由

一請求原因1ないし5の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二そこで、抗弁1について検討する。

抗弁1の事実中、大阪市教育委員会及び淡路中学校校長が二三条許可を受けていないことは当事者間に争いがない。

ところで、原告らは、法第四一条三号及び規則第二三条の適用範囲並びに規則第二三条の法的有効性について争うので、まずこの点について考察する。

法第四一条第三号は、労働密度が特に稀薄で、身体または精神緊張が比較的少なく、労働若しくは業務が間歇的であるため、労働時間中においても手待ち時間が多く実作業時間が少ない労働に従事する労働者について、その労働の特殊性の故に労働時間、休憩及び休日に関する厳格な法の規定を等しく適用することがかえつて他の労働の規制と実質的均衡を失する結果になる場合において、法定の厳格な制限を加えることなく所轄行政官庁の規制にゆだねることによつて当該労働者の保護に欠けることがないようにするとの趣旨のもとに規定されたものであり、右立法趣旨からすれば、法第四一条第三号は、その規制対象を断続的労働を本務とする者に限定していると解すべきではなく、他の業務に従事する者がその本務以外にこれに附随して宿日直勤務に従事する場合においても、本務とこれに附随する宿日直勤務を合わせ一体として考察し、労働密度の点から過度の労働に至らず、労働時間、休憩及び休日に関する法的規制を宿日直勤務に関する限り除外しても労働者の保護に欠けるところがないと認められる場合をも包摂する趣旨の規定と解するのが相当であつて、規則第二三条は、右のような労働内容をもつ宿日直勤務という断続的業務について法第四一条第三号の適用のあることを示す、いわば同法条の特殊な場合の解釈規定と解すべきである。

よつて、原告らの前記主張は理由がない。

右のとおり、規則第二三条は法第四一条第三号の解釈規定であるから、規則第二三条にいう所轄労働基準監督署長の許可は、法第四一条第三号の行政官庁の許可に相当するものであるが、法第四一条第三号は法第四章及び第六章の労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用を除外するにあたり、当該労働が単に監視または断続的労働であるとの実体的要件のみならず行政官庁の許可を形式的要件としているのである。すなわち、法は届け出や行政官庁の認定(たとえば第一九条第二項等)と行政法上一般的禁止の解除を意味する許可とを用語上区別したうえで法第四一条第三号においては許可を要件としていること、同条第三号は、監視または断続的労働という労働密度の稀薄な特殊な労働につきその特質に相応した規制をするため、形式的な労働時間や休憩及び休日に関する制限をとり除きはするものの、実質的に法第四章及び第六章の規定する労働時間、休憩及び休日に関する規定の趣旨を生かし、それを確保し、もつて労働者を保護するとの労働基準法の目的を達成するため右制限の除去を行政官庁の許可にかからしめたものであり、これを詳論するならば、監視または断続的労働といつても千差万別であるため同条第三号の許可を付し得る労働か否かにつき実態調査をし、実状を十分把握したうえで許可・不許可を決する必要があり、また、許可するに際しても全面的かつ画一的に第四章及び第六章の労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用・不適用を決するのではなく、当該許可に附款を付することによつて労働の実態に即応した労働時間、休憩及び休日に関する規制をなし、もつて労働者の保護に十全を期することとしたのであり、単に監視または断続的労働であるか否かを認定すれば足りるというものではないこと、さらには、行政官庁は一般に許可制度を通じて社会情勢に即応した労働行政目的を実現すべき責務を負つているものということができるところ、労働者の労働時間、休憩及び休日に対する行政官庁の監督的機能の実効性を十分に担保することからも、法第四一条第三号の許可は文字どおり一般的禁止を特定の場合(本件では監視または断続的労働の場合)に特定人に解除するとの意味の許可と解さなければならないのである。

そこで、法第四一条第三号所定の許可の意義を右のように解した場合、法は前記実体的、形式的二要件を法第四章及び第六章で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用除外の要件としているところ、監視または断続的労働に従事する者について、同条の許可を受けないで法第四章及び第六章で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定に反する労働に従事させた場合には、右労働が実体的要件を充足するものであつたとしても形式的要件を充足していないために右規定の適用を除外される旨主張し得ないものと解するのが相当である。これは、前記説示のごとく規則第二三条が、法第四一条第三号の解釈規定であり、同条の許可と二三条許可とは同一のものと解すべきであるから、二三条許可を受けていない場合にも右と同様に規則第二三条の適用を主張し得ず、法の原則にもとるものと解さねばならない。

そうだとすれば、二三条許可を受けていない被告の場合には、被告のその余の主張を判断するまでもなく、被告は原告らに対し本務を超える宿日直勤務に対し法第三七条によつて割増賃金を支払う義務がある。

そして、前記割増賃金の計算の基礎となる賃金は、「通常の労働時間又は労働日の賃金」(法第三七条第一項)であるところ、原告らの宿日直勤務に対する割増賃金額は前記のとおり当事者間に争いがない。

なお、被告は、原告らの宿直勤務時間のうち午後一〇時から翌日午前五時までは就寝中の時間であるとの指摘をし、右時間が完全に仕事から離れることを保障された時間であるかのごとき主張をするので、以下若干の検討を加える。

宿直勤務の午後一〇時から翌日午前五時までは就寝時間であることについては当事者間に争いがなく、成立に争いのない<証拠>を総合すると、宿直勤務日の午後一〇時から翌日午前五時まで(以下、これを深夜という)就寝して差支えないとの取扱いはなされていたが、右就寝について明確な定めがあつた訳ではなく、まして右時間帯を休憩時間とする旨の明確な定めもなかつたこと、原告らが別紙一記載の宿直勤務をした時には校務員一人が宿直勤務をなす、いわゆる単直制であつて、宿直室において火災その他緊急の事態が発生した場合に備えて寝泊りする必要があり、それ故自由に淡路中学校外へ外出することが許されてはおらず、また、宿直勤務の具体的遂行は慣行に従つて運用されてきていたが、PTAその他の会合が催された場合、使用許可は午後一〇時までであつても実際はそれ以降に及ぶ場合があり、ときには午前〇時頃になることもあつたこと、そして、右会合の後片付けは原則として主催者がすることになつていたが校務員がすることもあり、また、右会合終了後使用した室や校門などの施錠をする作業も残つていたこと、宿直時間中の電話は校務員室に切換えられており深夜学校への電話があつた場合応対を余儀なくされること、深夜に外部から侵入する者があつた場合、とりわけ夏場にプールを使用するために来る者が多く、それらの者を学校外へ排除する仕事があつたこと、さらに原告らは校舎等の管理をはじめとする右のような職務を遂行するため深夜巡視することがあつたことを認めることができ<る>。<証拠判断略>

右認定事実によれば、原告らは、深夜時間中就寝することができるとの取扱いになつていたものの、これを休憩時間などのように完全に仕事から離れることを保障する旨規則等によつて規定されていた訳ではなく、現に原告らは午後一〇時以降も職務に従事しあるいは電話の応待などの必要が生ずればこれに従事しなければならなかつたのであるから、原告らは深夜時間中も完全に仕事から離れることを保障されていたということはできず、いわば単なる仮眠をなす程度の時間であると解するのが相当である。

よつて、被告は、原告らの午後一〇時から翌日午前五時までの宿直勤務について深夜の割増賃金の支払を免かれることはできないのである。

三抗弁2の事実は当事者間で争いがない。

四そうすると、被告は原告らに対し、別紙二ないし五各D欄記載の超過勤務手当から抗弁2記載の個別的に命じた超過勤務に対して支給された別紙六記載の割増賃金額と原告らが既に宿日直手当として受領した金額(別紙二ないし五各E欄記載の金額)を差し引いた未払超過勤務手当(原告前田については金二九万〇九一九円、同井上については金九五万一九二三円、同梶については金四八万五六八一円、同塚本については金一三万三九三二円)の支払義務を有するものということができる。

五次に法第一一四条に基づく附加金の請求について検討する。

被告は、大阪市教育委員会及び淡路中学校校長が二三条許可を受けることなしに原告らに宿日直勤務を命じ従事させたのであるから、超過勤務手当を支払わねばならないにも拘らず宿日直手当として宿日直勤務一回につき昭和四四年一一月まで金八七五円、同年一二月以降金一〇〇〇円を支給した(ただし、別紙六記載の個別的に命じた超過勤務については除外する)のみで今日に至るもその余の超過勤務手当を支払わないのであるから、法第三七条に違反するものであること明らかといわなければならない。

よつて、当裁判所は被告に対し、法第一一四条に基づき、原告前田については金二九万〇九一九円、同井上については金九五万一九二三円、同梶については金四八万五六八一円、同塚本については金一三万三九三二円の附加金の支払を命ずることとする。

なお、附加金の支払義務は法第一一四条により使用者に課せられた義務の違肯に対する制裁として裁判所がその支払を命ずることによつて発生する義務であるから、右附加金の支払義務は本判決の確定時に遅滞に陥るものと解するのが相当である。

六以上の次第で、原告前田の本訴請求は金五八万一八三八円及び内未払超過勤務手当金二九万〇九一九円に対する支払期後である昭和四六年五月二五日から、内附加金二九万〇九一九円に対する本判決確定の日の翌日から各支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の、原告井上の本訴請求は金一九〇万三八四六円及び内未払超過勤務手当金九五万一九二三円に対する支払期後である昭和四六年五月二五日から、内附加金九五万一九二三円に対する本判決確定の日の翌日から各支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の、原告梶の本訴請求は金九七万一三六二円及び内未払超過勤務手当金四八万五六八一円に対する支払期後である昭和四六年五月二五日から、内附加金四八万五六八一円に対する本判決確定の日の翌日から各支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の、原告塚本の本訴請求は金二六万七八六四円及び内未払超過勤務手当金一三万三九三二円に対する支払期後である昭和四六年五月二五日から、内附加金一三万三九三二円に対する本判決確定の日の翌日から各支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余はいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書を、仮執行宣言の申立については、右未払超過勤務手当金の三分の一(主たる認容金額の六分の一)及びそれに対する昭和四六年五月二五日以降の遅延損害金の三分の一の各限度において相当と認め同法第一九六条第一項を適用し、その余の仮執行宣言申立及び担保を供する右免脱宣言の申立については、その必要がないものと認めてこれを却下することとし、主文のとおり判決する。

(上田次郎 松山恒昭 上垣猛)

別紙一〜五<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例